原発放射能の基礎知識


 1、原発の運転で、ウラン燃料棒の放射能の強さは使用前の10億倍になる

100万kw級の原子炉には、100トンのウラン燃料が入っている。およそ1年に1度の定期点検のとき、約30トンづつ新しいものに交換される。

ウラン燃料中のウランのうち、3〜4%が核分裂エネルギーを取り出せる“燃える”ウラン235。残りは“燃えない”ウラン238である。

原発の運転により、1年間に約1トンのウラン235が核分裂生成物に変わっていく。核分裂生成物の放射能の強さは、もとのウラン235よりもはるかに強い。核分裂生成物のほとんどは燃料棒の中にたまっていく。3〜4年間の運転後は、燃料棒の放射能の強さは使用前の10億倍になっている。

2、東海地震の震源域に莫大な放射能が・・・

原子炉の中の燃料棒にたまっている核分裂生成物のもつ放射能は、100万キロワット級原発の場合、半減期1時間以上の主な放射性物質のものだけで約1万3600京ベクレルもある(1京は1万兆)。

東海地震の震源域にある浜岡原発では、4基の原子炉が運転中で電気出力は合計360万キロワット。4基あわせて5万京ベクレルをこえる放射能をもつ放射性物質が内臓されている。

3、放射性物質と放射線のちがい

“放射性物質”と“放射線”の区別は、ひじょうに大切。放射性物質は放射線の発生源。生物に害を与えるのは放射線。“放射能”とは放射性物質が放射線を発生する能力のこと。

原発の大事故が起こると、大量の放射性物質が微粒子になって大気中に流れ出す。これがいわゆる「放射能雲」である。「放射能雲」は、放射性物質の一部を降下させながら風下へ流れていく。

通過中の「放射能雲」中の放射性物質、地面や建物に降下した放射性物質、服や皮膚に付着した放射性物質から放射線が放出される。

もし放射性物質の微粒子を吸いこんだり、汚染された水や食物をとおして体内に取りこまれると、それらの放射性物質は、体内から放射線を浴びせつづける。これを“内部被ばく”という。

4、放射性核種

核エネルギーや放射能は、原子核が変わる反応にともなうものである。物が燃えるようなふつうの化学反応は、原子核のまわりの電子を原子同士がやりとりする反応であり原子核は変化しない。

同じ元素の原子核ならば原子核をつくっている陽子の数は同じだが、中性子の数にはいろいろなものがある。これらを“同位体(アイソトープ)”という。同位体をあらわすには元素名の次に陽子と中性子をあわせた数を添える。たとえば水素原子の同位体として、陽子1個に加えて中性子が0個のもの(水素1=軽水素)、中性子が1個のもの(水素2=重水素)、中性子が2個のもの(水素3=三重水素=トリチウム)がある。同じ元素の同位体ならば、化学的性性質は変わらないため、ふつうの化学反応で同位体をより分けることはできない。同位体のちがいを区別して原子核を呼ぶときには“核種”と言う。

同位体には安定なものと不安定なものがある。不安定な同位体は、その核種に固有の速さで別な核種に変わっていく。これを放射性壊変(崩壊)という。放射性壊変を起こす核種を放射性核種または放射性同位体(ラジオアイソトープ=RI)という。このときに放射線を放出する。つまり“放射能”とは、放射性核種がもつ性質である。放射性壊変によって放射性核種の数が半分になる時間を、その放射性核種の半減期という。なお、放射性壊変によって陽子の数が変われば別な元素になる。

水素の場合は、水素1と水素2は安定同位体、水素3は放射性同位体である。水素3(トリチウム)は、ベータ線を出しながら半減期12.4年の速度でヘリウム3に変わっていく。

5、放射能の強さはベクレル(Bq)であらわす

放射性核種の放射能の強さ(放射能としての量)は、1秒間に何個の原子核が放射性壊変を起こしているかによってあらわす。1秒間に1個の原子核が放射性壊変しているとき、放射能の強さは1ベクレル(Bq)であるという。最近まで、1グラムのラジウムがもつ放射能の強さを基準にしたキュリー(Ci)という単位が使われた。1キュリー=370憶ベクレルである。

表のように、天然の放射性核種にくらべて原爆や原発で生じる人工放射性核種の放射能は桁ちがいに強い。

1グラムあたりの放射能の強さ 半減期
天然の放射性核種 ウラン238 1万2000ベクレル 45億6000万年
カリウム40 26万ベクレル 12億5000万年
ラジウム226 370憶ベクレル 1600年
人工の放射性核種 セシウム137 3兆2000万ベクレル 30年
ヨウ素131 4600兆ベクレル 8日
キセノン133 6900兆ベクレル 5.3日
クリプトン88 290京ベクレル 2.8時間

6、天然の放射性核種

私たちは、つねに地面や大気中や体内にある天然放射性核種からの放射線と、宇宙からの放射線を浴びている。これらを“自然放射線”と言う。

地球の岩石にはウラン・トリウム・カリウム40などの天然放射性核種が微量に含まれる。これらは、もともと超新星の爆発などによって造られ、宇宙空間をただよい、46憶年前の地球誕生時に地球の一部になった。半減期が地球の年令に近いため、現在も多量に残っている。

@ウラン、トリウム、ラジウム、ラドン
ウランやトリウムは放射性壊変を繰り返して安定な鉛に変わっていく。その過程で生じるのがラジウムやラドン。トリウムの壊変から生じるラドンをトロンと呼ぶこともある。ラドンは重い気体で、私たちは常に微量のラドンを吸いこんで肺に放射線を浴びている。

Aカリウム40
カリウム40も代表的な天然放射性核種。全カリウムの約0.01%がカリウム40。
カリウムは生物にとって必要不可欠な元素で、カリは窒素・リン酸と並ぶ肥料である。放射性のカリウム40も、安定なカリウム39やカリウム41も、化学的性質はまったく変わらず、生物は区別できない。人間の体にはカリウム40が約3700ベクレル含まれている。

B炭素14
宇宙空間には宇宙線という、星の爆発や太陽の活動により生じた放射線が満ちている。
宇宙線が地球大気上層で空気中の窒素原子と衝突して炭素14が生じる。炭素14の半減期は5730年と短いが大気上層で常に生み出されている。全炭素のうち炭素14の割合はわずかに1兆分の1。しかし炭素は人体の主成分なので、人体中には炭素14が約1500ベクレル含まれている。

7、原発の大事故で放出されるおもな人工放射性核種

原爆や原発は、ウラン235やプルトニウム239の原子核を人工的に破壊する核分裂反応によってエネルギーを取り出す。もとのウラン235やプルトニウム239の原子核は粉々の破片に分かれる。これらの破片のほとんどはひじょうに放射能レベルが高い放射性核種である。これらの人工放射性核種は、半減期が短い。同じ核種が超新星爆発で生じたとしても地球誕生時には失われていた。したがって、生物にとっては初体験である。

@放射性クリプトン、放射性キセノン
常温でも気体の放射性核種で、原子炉中のほぼ全量が放出される。重い気体。「放射能雲」が通過中に強烈な放射線を浴びせる。しかし「放射能雲」の通過後には残らない。

Aヨウ素131
ヨウ素は184℃で気体になるため、原発事故でひじょうに放出されやすい。
天然のヨウ素はすべて安定なヨウ素127で、放射性のヨウ素は存在しない。ヨウ素は必須微量元素で、咽喉(のど)の近くの甲状腺に集められ成長ホルモンの成分になる。呼吸や水・食物をとおして放射性ヨウ素を取りこむと、ふつうのヨウ素と同じように甲状腺に集められ、甲状腺が集中的に被ばくする。
ヨウ素131の半減期は8日なので半年後にはほとんど消滅する。しかし遺伝子についた傷が残ると、甲状腺ガンを引き起こす。チェルノブイリ原発事故による子どもの甲状腺ガンは事故の5年後に現われ始め、10年後にピークになった。発症率は、汚染地区が多いゴメリ州全体で、子ども約1000人に1人。

Bセシウム137
セシウムも678℃で気体になるため、原発事故で放出されやすい。
セシウム137は、半減期が30年と長い。またセシウムは土壌粒子と結合しやすいため長い間地表から流されない。このため、短寿命の放射性核種やヨウ素131が消滅したあとにも残る。地面から放射線を放ち続け、農作物にも取り込まれて、長期汚染の原因になる。
旧ソ連では、セシウム137が1平方メートルあたり150万ベクレル以上(1平方メートルあたり0,004グラム以上!)の地域を強制立退き地域にした。高濃度汚染地域は、チェルノブイリ原発から約250kmの範囲に点在している。
過去には、1960年代末までの大気圏核実験によって1憶8500万京ベクレルという、膨大な核分裂生成物がばらまかれ、地球全体を汚染した。核実験によるセシウム137は、現在も海水・地表・大気中に残っている。

(Cプルトニウム239)
プルトニウム239は原発事故ではあまり遠方には放出されず、大部分は事故原発の敷地周辺にとどまると思われるが、参考のために記す。プルトニウム239は核分裂反応でつくられるのではなく、核分裂反応により放出される中性子を燃料棒中のウラン238が吸収して生み出される。プルトニウムは94個の陽子をもつ。天然には陽子を92個もつウランよりも陽子数が多い元素は存在しないので、陽子を93個以上もつ人工元素を超ウラン元素という。
プルトニウム239の半減期は長く2万4千年もある。これは地球の年齢とくらべれば十分に短いが、人間の時間から見れば半永久的に長い。

8、放射線の害

放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などがある。放射性物質の種類(核種)ごとに、放出される放射線の種類や強さがちがう。

放射線が近くを通過すると、原子や分子はイオン化され、生体組織や遺伝子を傷つけたり、活性酸素(酸素分子から電子が1個失われたもの)が生じて生命活動をさまたげる。放射線を浴びただけ、修復しきれない傷が増えていく。

短い時間(1ヶ月以内)に、内部被ばくを含めて浴びた放射線量の合計が、一定量(1シーベルト)を超えると急性障害が現われる。それ以下だと、すぐに障害は現われないが、将来にわたって浴びる放射線量の合計に比例して、ガンになる確率が高くなる。

9、放射線の測り方とあらわし方

放射線の量“線量”を表すには、いくつかの方法がある。
単位時間あたりの線量を“線量率”という。

@照射線量
クーロン/キログラム(C/Kg)、旧単位はレントゲン(R)] 
放射線の通過による空気のイオン化の程度で放射線の量を表す。

A検知器を通過した放射線の本数、を単位時間あたりで表した線量率
[1分あたり本数(cpm)、1秒あたり本数(cps)]
口径のちがいなど、検知器によって通過本数は異なる。したがって、それぞれの場所について、検知器ごとに、ふだんの放射線通過本数を知っておく必要がある。ふだんと比べて何倍ぐらい放射線の本数が増えたかということで、異常事態を知る。
中部電力が公開している浜岡原発の排気筒・排水口モニターは“cps”表示。
http://www.chuden.co.jp/hamaokastate/index1.htm
市民サイドの『R-Dan検知器』は“cpm”表示。R-Danは100V電源で常にスイッチを入れておき、事故を察知する使い方に向いている。ふだんの10倍をこえる数字が続いたら、何かの異変である。

B吸収線量
[グレイ(Gy)、旧単位はラド(rad)、1ラド=0.01グレイ]
放射線を浴びた物質が、放射線から受け取ったエネルギーの量で、放射線の量を表す。物質1キログラムが1ジュールのエネルギーを受け取る線量を1グレイ(Gy)とする。エネルギーを受け取る物質が空気のときは、“空気吸収線量”という。
浜岡原発周辺の静岡県環境放射線監視センターのモニタリングポストの計測値は、“1時間あたり空気吸収線量”で示されている。ふつうは1000分の1を意味するミリ(m)や100万分の1を意味するマイクロ(μ)や10憶分の1を意味するナノ(n)つけて、マイクログレイとかナノグレイのように言う。
静岡県のモニタリングポストの通常値は60〜90ナノグレイ/時間(=0.06〜0.09マイクログレイ/時間)
http://www.hoshasen.pref.shizuoka.jp/l7.html

C線量当量
シーベルト(Sv)、旧単位はレム(rem)、rem=0.01S
放射線を浴びる人体へのダメージの程度で、放射線の量を表す。
放射線の種類が異なれば人体への影響は異る。アルファ線では吸収線量を20倍、ベータ線とガンマ線では吸収線量を1倍する。
アルファ線では、1グレイ=20シーベルト、ベータ線とガンマ線では、1グレイ=1シーベルト。
チェルノブイリ救援中部(連絡先:河田、 052-836-1073)で扱っているウクライナ製の放射線測定器『シンテック』は、放射性物質が飛来している中での測定や、移動しながらの汚染された地面の測定に向いている。値段も1万円と手ごろ。空間を飛び交うガンマ線と、汚染された物体の表面付近のベータ線を感知する。“1時間あたりマイクロシーベルト(μSv/h)”に換算して表示。表示範囲は0.01〜999マイクロシーベルト/時間。日本列島の自然放射線レベルは、平均0.11マイクロシーベルト/時間だから、自然放射線レベルの9000倍まで表示できる。西ドイツとロシアの市民サイドで開発された、同じ機能の測定器もある。
原発震災に備えるには、このタイプの測定器がおすすめ。

10、総被ばく線量

放射線を浴びつづければ、遺伝子の傷は増えていく。つまり放射線障害は、総被ばく線量に比例する(厳密には、同じ線量でも短時間に受けた方が被害が大きい)。

総被ばく線量を求めるには、同じ量の放射線を外から浴びつづける場合は、時間あたり線量と被ばく時間を掛け算する。地面が放射能汚染されている場所では、そこから離れるまでは、あなたの総被ばく線量は増えつづける。

体内に放射性物質を取りこんだ場合は、どこへ行こうと内部被ばくを受けつづける。その量は体が放射性物質を排出する割合と放射性物質の減衰(半減期)に応じて減っていく。そこで、いま体内に取りこんだ放射性物質が、この先浴びせつづける放射線量も含めて、被ばく線量を見積もる。

11、一般人の年間被ばく「許容]限度

原子炉等規制法と放射線障害防止法では、一般の人の年間(総)被ばく許容限度は“自然放射線による被ばくに加えて1年間に1ミリシーベルト(mSv)”と決めている。

日本列島の自然放射線レベルは、1年間あたり0.8(神奈川)〜1.2(岐阜)ミリシーベルトだから、自然放射線レベルの2倍の放射線量(平均0.3マイクロシーベルト/時間)の場所に1年間いれば、年間許容限度を超える線量を受けることになる。

12、原発震災

一方、原発震災で「放射能雲」が飛来する時には、自然放射線レベルの数百倍〜数万倍という線量を一時的に受けることになる。

チェルノブイリ原発事故の時、事故原発から64km離れたブラーギンで自然放射線レベルの4000倍、180km離れたチェチェルスクで900倍の、1時間あたり照射線量の最大値が観測された。内部被ばくを除いても、ブラーギンに半日いただけで年間許容量を超えてしまう。

どの程度の放射線被ばくを受け入れるかということは、短期の被爆と長期間の被爆とでことなる。また年齢・性別によってもことなる。放射線被ばくの影響の大きい順に並べると、胎児(つまり妊婦)→幼児→成長期の子供→これから妊娠の可能性がある女性→これから妊娠させる可能性がある男性→熟年以上の成人ということになるかもしれない。たとえばあまり高濃度でない汚染地域では、高齢者の場合30年後のガン発生のリスクが高くなったとしても住み慣れた土地を離れるストレスが大きいため、被ばくを受け入れて住み続けるという選択もありえる。しかし若い人たち、とくに子供は短期の訪問以外はとどまることはできない。

また、原発震災の場合、平常時の避難は不可能になる。かなりの量の短期被ばくは避けられない。妊婦や子供にはきびしい基準で避難を優先し、熟年以上はかなりの被ばくを受け入れざるをえないだろう。そこで平均的な数字ということになるが、原発震災の場合に以下の“めやす”を提案したい。

ヨウ素剤の服用・・・5マイクロシーベルト/毎時(自然放射線による被ばくの40倍)
注:飛来する放射性物質にはさまざまな放射性核種が含まれる。ヨウ素剤の服用は、放射性ヨウ素を体内にとりこまないようにするためだけに効果がある。放射性ヨウ素以外の核種にはまったく効果がないことに注意。

「放射能雲」通過後の地面からの被ばくを避けるための緊急避難・・・500マイクロシーベルト/毎時(自然放射線による被ばくの4000倍)

原発震災が起こったら・避難の手引き


もっと詳しくはこのURLをご参照ください。
http://www.osk.janis.or.jp/%7Ekazkawa/nuclear00.html