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『原子力のタブーを打破しよう』


村田光平
東海学園大学教授(元駐スイス大使)  a-murata@wta.att.ne.jp

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今、日本社会は、不況や北朝鮮問題などに目を奪われ、はるかに悲惨な“日本の破滅”が現実に迫りつつあることを知らずにいます。

それはいったん起こってしまえば鎮圧不可能で、何百何千万人に被害を及ぼし、しかも何万年にも及ぶ大災害となりうるもの、つまり『原発大事故』の発生です。それを政府はもちろん、メディアも積極的に取り上げていません。タブーの存在により、国民に知られることが妨げられているのです。

 私は一年程前に次のような情報を得ました。1973年に欧米で問題となった製法による原発が、日本では十基余りもそのまま運転されているというものであります。この製法によれば、原発の核心部分である圧力容器に毛状の亀裂が多数生じます。

このような欠陥のある原発は緊急炉心冷却装置が作動した場合、約240度の温度差が生ずる結果、中性子で劣化した周辺の鉄がカルメラの如くパリンと破裂してしまうといいます。

この詳しい実験結果は米国のウオークリッジ研究所によって実証されております。3年程前に原発の寿命が40年と定められていたものを60年へと独断的に変更されたことを想起すれば、この情報の重大性が痛感されます。

私はこの情報に接した直後から、数度に亘り小泉内閣総理大臣を始め、松浦原子力安全委員長、一部の電力会社社長等に伝え、事故発生を防ぐため万全の措置を取るよう申し入れております。報道されるか否かよりも、破局の到来を回避することが最優先されるべきだからであります。

 最近、東電の公開文書である「福島第一原発高経年化対策報告書」の8ページにこの情報を裏付ける記述があることが判明しました。また、これまでにこの情報を入手した二,三の報道関係者の取材活動が中断を余儀なくされる例が見られましたが、8月8日発売の「週間金曜日」に遂にスクープ記事が掲載されるに至りました。

徹底的な解明が求められます。1985年8月の日航ジャンボ機墜落は、日航が隔壁修理ミスを発見しながら、「ボーイング社の技術は絶対」などとして検証を怠たり、7年後に事故が発生したと報ぜられております。このような過ちは決して許されません。

私がこの書簡を書くこととしたのは、これまでのタブー破りの努力の一環であり、指導層を始め国民各層の良心に直接訴えることにより、幅広く世論を喚起し、破局の到来を未然に防ぐ一助となることを願ってのことであります。

 「国策」として揚げられているわが国の原子力政策は核燃料サイクル政策に見られる通り、八方塞がりの状況にありますが、世論の覚醒がない限り、政策転換は望み難いのです。その間、同政策が国民の生命の安全を脅かすものであることが、次の通り、益々明白になりつつあります。

● マグニチュード8クラスの大地震の発生がいよいよ身近に予測されている東海地方、そのど真中に存在する4基の浜岡原発の危険性は、国際的にも関心を集めつつあります。今年7月札幌で開催された国際会議でわが国の地震学の権威である茂木清夫元地震予知連会長及び石橋克彦神戸大学教授は原発震災による未曾有の破局の可能性に言及しつつ、重大な警告を発したのです。

これは昨年5月、私も参加し、下河辺淳元国土庁事務次官他6名の連名で浜岡原発の運転停止を求める声明を発出したことに続くものであります。浜岡原発は日本のみならず世界を脅かす存在となっています。

● これと同様に世界を壊す可能性があるものとして注目すべきは青森県六ヶ所村の再処理工場であります。専門家によれば、再処理工場は最悪の場合、原発1000基分の大事故となり、世界の人口の半分近くの犠牲者を生む可能性があるとのことであります。

二年半前に発生した同再処理工場関連施設の水漏れ事故は、最近250ヶ所余りもの不正溶接が発見されるに至り、極めてズサンな工事が世間を驚かせています。当局による監督の強化で済まされる問題ではありません。

● 六ヶ所村はこの他、国際熱核融合実験装置を誘致することを決めております。これに対しては、今年3月、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊氏及びマックスウェル賞受賞者の長谷川晃氏が、連名で同装置は200万人を殺傷する可能性のあるトリチウムを使用することに言及しつつ、同誘致に絶対反対するとの嘆願書を小泉総理宛に発出しております。

このようにわが国の原子力政策は国民の生命の安全を脅かすものとなっており、もはや、「国策」の名に値しないことは明白であります。しかし、必要とされる政策転換には原発関係で生計を立てている多くの人達の生活保障の問題を始め、余りにも多くの困難が伴うこともあり、世論の抜本的喚起が不可欠となっております。

 このような現状をこれまでのように見て見ぬ振りをして何もしないということは、破局の到来を想像すれば、誠に罪深いことであり、もはや許されないのではないでしょうか。

何卒、日本のため、未来の世代のため、そして人類のために御尽力をお願い申しあげます。

平成15年8月13日