朝日新聞名古屋本社版(2004/10/16)

 
検証 浜岡原発 5

最悪事態、自治体も備え

 「地震後、浜岡原発でトラブルが発生した時にどう対処するか」をテーマにした検討会の初会合が7月初め、静岡県庁で開かれた。会合には、同県防災局幹部と原子力安全・保安院、有識者ら10人程度が出席した。

 県側は専門家に、東海地震と原発事故が重なった場合に想定される事態について、率直な意見を求めた。「万が一の確率でも、二つが重なった場合を想定した対策が必要だと考えていた。実りのある議論をしたい」と県原子力安全対策室。

 「原発は地震に耐えられる」

 国や電力会社が掲げる大前提に沿って、原発が立地する自治体は、地震対策と原子力災害対策とを分けて考えてきた。東海地震対策を細かく盛り込んだ静岡県地域防災計画でも、東海地震で浜岡原発が深刻な被害を受けることは想定していない。

 だが最近になって、最悪の事態にも備えようとする動きが出始めた。

 今年4月、旧浜岡町と旧御前崎町が合併し、御前崎市が誕生した。市は6月、浜岡原発で事故が起きたという想定での国と県の訓練に参加した。今後は、放射能漏れを想定し、風向きによって避難経路を考える訓練も検討しているという。

 原発防災訓練は昨年2月にもあった。だが、旧浜岡町は参加を見送った。「原発震災を想定した訓練は必要ない」としていた当時の町長は「住民の不安をあおる」と説明した。

 4月の市長選で、前町長を石原茂雄市長が破った。新市長誕生で、市の姿勢にも変化が出た。

 「市の発展を考えると、浜岡原発とは共存共栄でやっていく」。石原市長はこう前置きしたうえで「でも、美浜原発で起きた事故を考えると、万が一の事態に備えていて損はない」。県職員の一人は「ようやく地元と原子力防災について話ができるようになった」と歓迎する。

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 米海軍横須賀基地を抱える神奈川県横須賀市。日米安保体制の下、多い年で年間240日ほど原子力潜水艦や原子力空母が寄港している。

 国は「原子力艦船の事故はありえない」とする米側の主張を受け入れてきた。放射能漏れ事故対策に動かない国に業を煮やし、同市は00年、全国初の原子力艦事故防災マニュアルをつくった。国が防災基本計画に原子力艦災害対策を追加したのは、その2年後だった。

 マニュアル作成後から同市が実施している原子力防災訓練では昨年初めて米軍も参加、今年も今月26日に実施する。地元住民や子どもたち、米軍など参加者は広がっている。

 「市が動いた結果、国も『事故はありうる』という前提に立つようになった」と沢田秀男市長は振り返る。

 「どんなシステムでも事故が百%ないとは言い切れない。地元自治体のできることに限界はあるが、事故のことを考えれば、対策を取らないわけにはいかない」=おわり
 (この企画は添田孝史、寺西哲生、久土地亮、松井健が担当しました)