朝日新聞名古屋本社版(2004/10/11)

 
検証 浜岡原発 1



 「先ほどの地震で、原発に異常はありませんでした」

 9月6日午前0時すぎ。静岡県御前崎市の西原敏・原子力対策室長の携帯電話に、中部電力浜岡原子力発電所から連絡が入った。

 20分ほど前、紀伊半島沖でマグニチュード(M)7.4の地震が起きた。震源から約200キロ離れた御前崎市は震度3。同市内にある浜岡原発では、十数種類の警報が中央制御室で鳴り、職員が点検して異常の無いことを確かめた。

 「取り決めでは翌朝連絡すればいい程度の揺れだったが、関心が高いのですぐに連絡した」と中電広報部。

■極めて危険
 想定される東海地震はM8。エネルギーは今回の約8倍、揺れは何十倍にもなる。

 「これは極めて危険な状況だ」

 8月末、日本地震学会など5学会が発行する英文専門誌で、地震予知連絡会前会長の茂木清夫・東大名誉教授は警告した。

 中電は「東海地震を越えるM8・5の地震を想定しており、それに耐えられるから大丈夫」と安全性について説明してきた。しかし、20年以上も前の想定で、「過小評価では」との批判も出た。

■中電「安全」

 国は01年、東海地震の揺れ予測を22年ぶりに見直した。阪神大震災以降得られた最新の研究成果を取り入れた。

 「新たな予測でシミュレーションしても安全だった」というのが、中電側の根拠だ。しかし、「我々は自然をまだそれほどよく理解していない。揺れはこの予測を上回る可能性もある」(安藤雅孝・名古屋大教授)と考える専門家は多い。

国の予測をまとめた入倉孝次郎・京大副学長も「中電は、浜岡にとって一番都合が悪いもっと厳しい揺れを想定した方がいい」と主張している。

 予測のカギを握るのは、地震のエネルギーを集中的に放出する「アスペリティ」と呼ばれる部分の位置だ。国は、小さな地震の観測結果などからアスペリティの場所を推測した=図。ただ、浜岡直下には想定していない。

■正解はない

 入倉さんは、国が想定した位置が最もありそうだと考えている。しかし、「唯一の正解と言えるほど、学問は進んでいない。原発のような重要施設のチェックまで、この予測で出来るとは言えない」とクギを刺す。

 地震の深さにも異論が出ている。国は、浜岡原発の地下約20キロでの地震を想定している。これに対し、独立行政法人防災科学技術研究所の石田瑞穂・研究主監は、深さ10キロぐらいの位置で起きる可能性を指摘する。

 実際の地震が国の予測とずれて、浜岡直下にアスペリティが生じたり、浅い場所で起きたりした場合、揺れは中電の予想より大きくなる。

 「国の予測より厳しい揺れについても勉強している。だが、それに浜岡原発が耐えられるかの検証はまだ」と中電の久野通也・原子力土建グループ課長は話している。

 ◇

 30年以内に84%の確率で起こるとされる東海地震。この時、浜岡原発は耐えられるか。検証や対策の今を探った。

<キーワード>浜岡原発
 中部電力の唯一の原発で沸騰水型。76年に1号機が運転開始。1〜4号機で出力は362万キロワット。中電の発電設備の11%に相当する。5号機(138万キロワット)が来年1月に営業運転を始めると、国内では東京電力・柏崎刈羽に次いで2番目に大きな原発になる。